今日は「二宮翁夜話」
ご存知二宮尊徳さん、幼名の二宮金次郎の方がわかりやすいでしょうか?
薪を背負いながら本を読んでいる像で有名ですね。
二宮金次郎は、本を読むだけでなく、子どもの頃から自助努力の能力があった方です。
若い時に両親に死に別れ,叔父の家で養われていたときのこと、夜中に勉強をしていたら「油代がかさむから夜の勉強はやめてくれ」と言われました。
それも最もだと思った金次郎は,自分で種をまき,収穫したものを油屋へもっていって油に変えてもらいました。
こうして、油を自分で賄い、勉強を続けたと言うことです。
このような,自分の力でできる小さなことを積み重ねることで大きなこと可能にするという経験は,「積小為大」という言葉に表され,その後の尊徳の指針となり,結果として没落した我が家を立て直したどころか,30歳ほどにして祖父の時代の田畑の数以上に増やしていくことにつながりました。
この噂は財政窮乏した藩の大名,家老にまでとどき,その財政の救済を頼まれるようになります。
いわゆるコンサルタントです。
たんにコンサルをするだけでなく,財政一切を自分にまかせることを条件にして仕法していきます。
一介の農民が,藩の財政一切を取り仕切るまでになったのです。
こうして,その任地に住み込み、村人を一軒一軒回りながら,考えを変えつつ、次第に荒れた村が豊かな村に変わっていく。
仕組みはシンプル。
まずは,自分に入ってくるものと出ていくものと正確に把握して,残るものを決め,それを「分度」とし,その分度に応じた衣食住,付き合いなどをしていれば決して滅びないということを分からせること。
さらに,財を増やすには,「分度」の半分で生活し,半分を次の年に,また貧しい人に,また村のためなど,今の自分以外のもののために「譲る」ことをしていれば,次第に材は増えていくものだということを実感させること。
これは,個人の家を興す,もしくは再興する法にとどまらず,村,領,国,すべてに通ずる仕法だといえます。
「かばかりの
ことは 浮世の習いぞと
ゆるす心の
果てぞ悲しき」
という古歌がありますが,自分の分度を超えた付き合いやぜいたくとはしっかり縁を切って,いわゆる「分に応じた生活」していれば滅びることはありません。
そしてそれだけなら単に自分が滅びないということにすぎませんが,それを譲ることによって天下がとみ栄えていくことになるのだと。(「推譲の道」)
この仕法を学びに多くの人々が集まるようになるわけですが、そのうちの一人 福住正兄(ふくずみまさえ)が、翁の話したことを後世に伝えようと思って記録したのが「二宮翁夜話」です。
記録のほとんどは「翁はこう言われた」という言葉から始まっています。仏教でいうところの「如是我聞」を思い出します。
と思っていたら,福住正兄もこの記録を「如是我聞録」と称していたとのことでした。仏教の布教と,尊徳の分度に基づく推譲の道を中心とした報徳思想の普及とを重ねていたのかもしれません。
「夜話」は,古事記、万葉集、古今和歌集などの日本古来の教養だけでなく、論語、漢詩などからも多くの引用をしながら、弟子たちに解いて聞かせます。
銅像に見られるように,隙間時間を使った幼少のころからの読書は,大人になってからもその効果がいかんなく発揮されます。
「例えば」と、例え話を使ってわかりやすく伝えるのがあちこちに出て来ます。例え話で相手に伝えるという手法が尊徳のやり方のようです。
世の中には、「例えば・・・」と言った瞬間から意味が分からないことを言い出す人がたまにいます。(私とか・・)
わかりやすく噛み砕けないからです。
「例え」でなく、「別の言い方」になってしまっているので、聞いている人には何も分かりやすくはならないのです。
つまり話している本人が十分にわかっていません。
ところが、尊徳の例え話は実によくわかります。
尊徳の仕法の中心に「推譲の道」、つまり「譲る」ということがあります。
それを話すのに、湯桶の湯を自分の方にかいたら湯は自分の体に跳ね返ってあちらへ行ってしまうが、まず相手にそっと押しやると、その湯はやがて自分の方に帰ってくる、というものがあります。
譲ることは相手を富ませることだけでなく、自分自身をも富ませることになる、ということを風呂の水で例えているのです。
また、自分の在所が悪所であると言って、そこを捨てて尊徳の村にたどり着いた人に
「ミミズが、土の中は暑いので外に出れば少しは涼しかろうと思って外に出た途端、日に焼かれてのたくっているようなものだ(今いるところで何かをなすことが尊いのであって、そこを出れば滅びるのだ)」
という喩え話をします。
まさに例えの人です。
二宮翁夜話には、荒廃した土地を元に戻し,さらに上田にしていくにはどうしたらいいのか,荒れた人心をいかに元に戻し,さらに向上心を持たせて自ら成長するようにするには何を考え、どう行ったらいいのかという話が満ち溢れています。
尊徳が現代に生きていたら,当然マネージメントのための「仕法書」をいくらでもつくっていたことでしょう。
まさに,現代における経営コンサルタントであると言えます。
何らかの経営にたずさわる人(学級経営を行う教師も含めて)は是非読んでおくべき本ではないかと思います。
長くて2ページ、短いもので数行と言った沢山の短文からなっています。
一つ読むのに数分しかかかりませんので、隙間時間に読むには最適です。
◇
今回の紹介を書くにあたっては,あと2冊の本を参考にしました。
「代表的日本人 内村鑑三」
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