今回は,脳科学者茂木健一郎氏による「脳が変わる生き方」です。
僕は,脳に関する本を読むのが好きです。昔から自分がリアルに感じているこの世界は,実は脳の錯覚でそのように感じているだけではないかという感じ方をしていました。
近年の研究で,脳細胞の反応と,実際の人間の行動との微妙な時間差などから,人間が意識して行動しているというよりは,脳細胞の働きによって人間が動かされており,それをあたかも自分が命令し自分の意志で動いているかのように錯覚しているのだということが現実視されてきました。
つまり,指を動かす時に「私」が指を動かしているのではなく、脳が指を動かし始めた直後に,「私」が「指を動かそう」と意図するのだということが分かってきたのです。
以下の本に詳しいです。
「脳は,なぜ『心』を作ったのか~『私』の謎を解く受動意識仮説」
このような脳科学の成果が、私の日ごろ感じていることを解決したり納得させられたりすることが多くなってきたので,この分野にとても関心があるのです。
クオリアのことはこの本で知りました。
そして,このクオリアの説明に,茂木健一郎氏の著作が引用されていたのです。
そういうことから,私は茂木氏の著作も読むようになりました。
茂木健一郎というと,「アハ体験」「プロフェッショナル 仕事の流儀」「クオリア」など,脳科学の最先端の研究者として,タレントとして,ゲームの監修者としてなど,幅広く活用されている脳科学者です。
氏の書く脳科学の本は,どれをとっても、難しい現代における脳の働きの問題を平易な言葉で説明してあります。読みやすいのです。
今回の「脳が変わる生き方」。脳に関する講演録を編集して著したものです。
本人があとがきの中で,
「数年にわたってさまざまなところで話してきたことの,エッセンスが詰まった本。自分で言うのもなんだが,お買い得だと思う。一人の読者として,大いに楽しむことができた」
「脳が変わる生き方」
と書いている通り,人の生き方を脳科学の観点から述べてあり,目から鱗が落ちるような経験ができる上でお買い得だと私も思います。
決して,脳の最先端のことが書かれているだけでなく,「だからこのような生き方をしましょう」という生き方論なのです。
内容は,
「1.人はどこまでも変われる」
どうなるかわからないという偶有性を楽しむこと,どこまでも成長できる「可能無限」であることを述べます。
「2.脳の中に多様性をはぐくむ」
多様性が成長を生むこと,創造性がはぐくまれること,
「3.他人を鏡として自分を知る」
いろんな人と出会い,できれば強烈に異なる人と出会い,そのことから自分を知ること。
「4.人生を質入れしない」
自分の人生を何らかの目的で規定しないということ。
「5.脳に空白を作る」
ロマンティック・アイロニー,つまりぼーっとすることが大切であること,脳のオープンエンドという性質により「自分はこうだ」と決めつけなければいつまでも発展すること
「6.子供の遊びのように遊ぶ」
人生の素晴らしいところはなにをしようとそこに偶有性がありそれを楽しめるのだということ。そしてそれを楽しむ最も高度なレベルは,子どもの無我夢中の遊びのような状態であるということ。
「終章」
結局いかに生きるか,ということ。
いかに脳の働きに即してうまく生きるか。
題名の「脳が変わる生き方」というのは,生き方によって脳をアンロックし,無限の発展へと導くことであろうと思います。
脳は可能無限,自分でリミッターをかけなければどこまででも発展するものだというではないですか。
では,どうしたらいいんだという時,私はそのキーワードは「楽しむ」ということではないかと思います。
この本にはあちこちに「偶有性を楽しむ」という言葉が出てきます。
偶有性とは,「この先どうなるかわからない」ということです。
人間は,どうなるかわからない不安があると,そこから逃げようとします。
しかし,それを楽しむことによりどうなるかわからない状態に自分から飛び込み,そこで得られた経験が自分をアップデートしていくのです
失敗しようが成功しようが関係なくです。
失敗も,脳をよい方向にアップデートするための重要な経験です。
多様な経験をするためには,そこで何が起こるかわからない,という偶有性を楽しめるほうがずいぶん有利ですよね。
私もよくやっているんです。
つらいときや先行きが不安でどうしようもないとき,「今,この心を楽しもう」って。
ドキドキは,実はワクワクなのかもしれないのです。
「これって,ワクワクじゃない?」と気づけば,私たちは偶有性を楽しむことができるようになるのだと思います。
この「偶有性を楽しみましょう」という言葉に出会えたことだけでも,この本を手に取って読む価値があるのではないかと思います。
先行きへの不安,ドキドキがワクワクに感じられるようになればすばらしいではないですか。
更新履歴
2019-10-1 公開
2021-3-18 修正
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