最近、何か新しく学んだことはありますか。
仕事のマニュアルでも、趣味のことでも、読んだばかりの本のことでもかまいません。
その学んだ内容を、何も知らない人に、今すぐゼロから説明できるでしょうか。
専門用語は一切使わず、小学生にも分かる言葉で説明できるか、ということです。
普通は、なかなか難しいと思います。
今回は、それができればちゃんと分かっている、という話です。
シニアの教養ラジオという再生リストに、私が話した音声をAIで動画にして投稿しました。
きっかけは、昨日見返していた読書メモです。
2023年のメモに、ある概念を理解しているかどうかは、入門講座ができるかどうかで分かるそうだ、と書いてありました。
リチャード・ファインマンさんの言葉として書いていて、確か、名著『ご冗談でしょう、ファインマンさん』を読んだときのメモになっていました。
ただ、その本の中にこの言葉があったかどうかは分かりません。
どなたかの本に、ファインマンがこう言っている、と書いてあったのを、私がメモした可能性もあります。
出典を探しましたが、分かりませんでした。
それでも、この考え方でインターネットを検索すると、ファインマンさんの名前がずらっと出てきます。

私たちは、本を読んだりニュースを見たりして、なるほど、わかったわかった、と思うことがよくあります。
でも、それをいざ誰かに話そうとすると、もごもごしてしまいます。
あれなんだったっけ、あのあれだよ、とごまかしたり、ちょっとした専門用語を入れてごまかしたりします。
それは、実は分かっていないのと同じことだ、というのがこのメモの言っていることです。
そこで今回は、このメモをきっかけに、本当に理解するとはどういうことか、どうすれば分かったつもりから脱出できるのかを考えます。
キーワードは、ファインマンテクニックです。
世界で最も説明が上手だったとして知られる天才物理学者、リチャード・ファインマンさんの学習法です。
目次
鳥の名前を全部覚えても、その鳥を知ったことにはならない
まずは、この話の主役、リチャード・ファインマンさんのことを確かめておきます。
ファインマンさんは、アメリカの物理学者です。
ノーベル物理学賞を受賞していて、量子力学を極め尽くした天才と言われています。
戦後には日本にも来ていて、旅館に泊まったときの様子が『ご冗談でしょう、ファインマンさん』に出てきます。
そんなすごい天才ですが、堅苦しさのない学者でした。
ユーモアの塊のような人だったといいます。
打楽器のボンゴをプロ並みにたたいたり、金庫破りの特技を持っていたりしました。
権威ぶった態度が大嫌いで、とても愛すべき人柄でした。
この点は、アインシュタインも似ています。

ファインマンさんは、偉大なる説明者と呼ばれていました。
どんなに複雑な物理学の理論でも、シンプルに説明できたといいます。
学生たちは、ファインマンさんの講義に熱狂したそうです。
なぜ、それほど説明がうまかったのでしょうか。
それは、ファインマンさんが知識というものを独特の視点で捉えていたからだといいます。
これについては、有名なエピソードがあります。
ファインマンさんがまだ子供だったころ、お父さんと一緒に森を散歩していました。
お父さんも、物事の本質を見抜く人だったといいます。
ファインマンさんは、森の中で1羽の鳥を見つけます。
すると、近所の子供がやってきて、あの鳥の名前を知ってる、と聞きました。
ファインマンさんが、いや知らないよ、と答えると、その子供は勝ち誇ったように言いました。
あれは茶色つぐみだよ、なんだ、君のお父さんは何も教えてくれないんだね。
でも、それは全く違っていて、お父さんはファインマンさんにこう教えていたのです。
いいかリチャード、あの鳥を見てごらん。
人間は、あの鳥をいろんな名前で呼ぶよ。
英語ではブラウンスローテッドスラッシュ、ドイツ語ではハルツェンフリューゲル、中国ではチュンロンタ。
でもね、リチャード、その名前を全部覚えたとしても、君はあの鳥について何一つ知ったことにはならないんだよ。

ここが最初のポイントです。
名前を知っていることは、知識ではないということです。
それは、人間がそれをどう呼んでいるかを知っているだけで、鳥そのもののことは何も分かっていないのです。
お父さんは続けて、名前なんてどうでもいい、あの鳥が何をしているかよく観察するんだよ、と言いました。
ファインマンさんが鳥を見ると、鳥はくちばしで羽をつついていました。
なぜ羽をつつくのだろう。
羽についた虫を食べているのかもしれない。
虫がいるということは、そこには栄養があるのかな。
こうして観察して考えて、初めて鳥を知ることができるわけです。

でも、私たちはよく勘違いします。
難しいカタカナ語を覚えると、頭が良くなったと感じます。
それは認知バイアスだね、PDCAサイクルがよく回っているね、と用語を口にした瞬間、自分が偉くなったように感じます。
その反面、名前を知っているだけで、もう分かったと思い、それ以上考えるのをやめてしまっていないでしょうか。
ファインマンさんは、これを徹底的に避けたといいます。
いつも、その言葉を使わずにそれが何か説明できるか、と自分に問いかけていました。
鳥の名前を知らなくても、その鳥の行動を説明できるか、ということです。
これが、入門講座ができないなら理解していない、という言葉の本当の意味です。
専門用語は、物事に貼ったラベルのようなものです。
そのラベルをはがしたときに、本当の理解がちゃんと残っているかどうかが問われているのです。
ファインマンテクニックの4つのステップで、分かったつもりの所を見つけて学び直す
では、どうすればファインマンさんのように本当の理解を手に入れられるのでしょうか。
そこで登場するのが、ファインマンテクニックです。
とてもシンプルですが、とても効果的だそうです。
4つのステップがあり、順に説明します。
ステップ1は、紙の一番上にテーマを書くことです。
学びたいこと、理解したいことのタイトルを、まず書きます。
ブラックホール、円安、会社の新しいプロジェクトの名前でもかまいません。
まずは、紙を用意してください。
ステップ2が、このテクニックの核心です。
誰かに教えるつもりで、説明を書き出します。
ただし、ルールがあります。
相手は専門家ではなく、12歳の子供だと思って書いてください。
専門用語は禁止で、難しい言い回しも禁止です。
説明文では、なぜならとか、例えばとかいう言葉を使って、なるべく簡単な言葉で説明文を書いていきます。
やってみると分かりますが、これがとても難しいのです。
例えば、円安を説明するとします。
円安とは、為替レートが変動して円の価値が相対的に下落することだよ、と書いたら、もうアウトです。
為替レートってなに、相対的にってどういうこと、と12歳の子供ならきっと聞くからです。
ですから、言い換えなければいけません。
日本の100円玉の力が弱くなっちゃうことなんだよ。
前は100円で買えたチョコレートが、今は150円出さないと買えないんだよ。
だから、海外旅行に行くと、昔に比べてお金がたくさんかかるようになるんだよ。
こうして、かみ砕いていきます。

すると、気づきます。
あれ、そういえば、なぜ円の力が弱くなるんだろう。
金利がどうとか聞いたけど、詳しく知らないな。
そこで、書いているペンが止まります。
そこが、ステップ3につながります。
ステップ3は、詰まったところを学び直すことです。
説明していて言葉に詰まった場所や、あやふやな言葉でごまかそうとした場所が、今の理解の穴です。
つまり、分かったつもりになっていた部分です。
ここが見つかったら、だめだ、ではなく、チャンスです。
教科書に戻り、Googleで検索したり、資料を読み返したりして、ああ、そういうことか、と納得できるまで調べます。
穴が埋まったら、もう一度、子供でも分かるように説明文を書き直します。
最後がステップ4、簡潔にまとめて例え話を作ることです。
専門用語を使わずに、しっかりした理屈で解説文を書けたとします。
それでも、まだ文章が長いこともあります。
もっと分かりやすくできないか、もっと直感的に伝えられないか、と振り返ってみます。
ここで、例え話の出番です。
ファインマンさんは、例え話が抜群に上手でした。
目に見えない電気の動きを水の流れにたとえたり、複雑な原子の動きをダンスにたとえたりしました。
そうやって、自分の身近なものに置き換えてみるのです。

この一連のステップがファインマンテクニックで、最後のステップ4で、ほかのものに置き換えられたときに完成します。
このやり方の特徴は、分かったという結果よりも、その過程が大事だということです。
うまく説明しようと必死に考える時間や、分からないところを見つけて悔しがる時間が、脳に深い記憶を刻み込みます。
ただ本を読んで、ふむふむとうなずいているときとは、脳の使い方が全く違います。
誰かに説明しようとすると、自分が何を分かっていないかに気づける
ここまで、ファインマンテクニックの4つのステップを見てきました。
テーマを書く、子供に教えるつもりで書く、詰まったらそこを学び直す、穴が埋まったら例え話で磨き上げる、の4つです。

やるといいことは分かったけれど、実際にやるのは大変そうだ、と思うのも分かります。
今から紙とペンを出して書き出すのは、おっくうです。
でも、全部を完璧にやる必要はないわけです。
日常のちょっとした場面で、このテクニックのエッセンスを使ってみようと思うだけでいい、と言われています。
例えば仕事で、上司から、来週までにこの資料の叩き台を作っておいて、と指示を受けたとします。
そのとき、ただ、分かりました、と言うだけでは、これまでと変わりません。
頭の中や小さな声で、これは一言で言うと何をする仕事だ、と自分に問いかけてみます。
GTDにも、これは何か、と考えるステップがありますが、それと同じようなものです。
そして、新人の後輩にこの指示を伝えて頼むとしたら、どう説明すればいいかを考えます。
これは、理解できていないとできません。
そのとき、何か資料を作る仕事、としか言えないなら、指示を理解していない可能性が高いということです。
叩き台とはどの程度の完成度なのか、誰に向けた資料なのかが、全く分かっていないわけです。
一言で言うとどうなるか、後輩にどう説明するか、と自分に問いかけるおかげで、その場で上司に聞き返せます。
確認ですけど、この資料は部長に見せるためですか、それともチーム内の検討用ですか、と。
ファインマンテクニックの考え方を持っていれば、自分が何を分かっていないかに、すぐ気づけるようになります。
これが最大のメリットだと言われています。

独り言説明会という使い方もあります。
私は、車の中でよくこれをやっています。
PCMレコーダーをオンにして、ずっと喋りまくるのです。
今日、面白いニュースがあったんだ、今日、量子コンピューターについての話を聞いたんだよ、それはこういうことで、と話し始めます。
すると、あれ、なんだっけ、ということがやっぱり出てきます。
言葉に詰まったら、後で調べてみようと思い、実際に調べます。
この、知りたい、という気持ちが、学ぶいちばんの力になっていきます。
テストのための暗記とは、次元が違います。
自分の言葉で説明できなかった悔しさが、知りたいという気持ちに変わっていくのです。
ファインマンさん自身も、そうやって物理を楽しんでいたそうです。
ノーベル賞を取った後も、物理学の基礎的な講義を1年生向けに行うことに、情熱を注いだと伝えられています。
学生に教えることで、ファインマンさん自身も物理学の本質を再発見していたからだと言われています。
教えることは学ぶこと、という言葉は、使い古された言葉です。
私自身も元教師なので、とてもよく分かります。
でも、ファインマンテクニックを通して見ると、また違った重みを感じます。
教える相手は、目の前の誰かでなくてもよく、未来の自分でも、架空の子供でもかまいません。
そういう相手に説明したい、という気持ちがあれば、理解はぐんぐん深まっていきます。
人に説明できるかを試し、詰まった所を伸びしろにする
最後に、ポイントをもう一度おさらいします。
1つ目は、名前を知っていることと理解していることは違う、ということです。
専門用語はただのラベルで、それに満足してはいけません。
2つ目は、理解度を測るバロメーターは、入門講座ができるかどうかだ、ということです。
専門知識がない人や子供を相手に説明できるかを、実際に試してみたらいいと思います。
3つ目は、説明に詰まったら、そこが伸びしろだ、ということです。
先ほどは理解の穴と言いましたが、伸びしろとも言えます。
そこを学び直すことで、本物の知識が身についていきます。

ぜひ、試してみてほしいと思います。
この放送を聞き終わったら、友達や家の人に、ファインマンテクニックって知ってる、実はね、と話し始めてみてください。
説明できたら、もうこの学習法をマスターしています。
うまく説明できなかったら、おめでとうございます、そこが伸びしろです。
もう一度、この放送を聞き直してみてください。
ファインマンテクニックや、リチャード・ファインマンという人について調べてみるのも、とてもいいと思います。
私のおすすめの本は、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』です。
シニアの教養ラジオの前の回は、こちらです。

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