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忙しいときこそ散歩に出る ジョルジュ・サンドとハマトン『知的生活』

知的迷走日記保管庫

忙しいなあと叫びたくなったとき、最初に何を削りますか。
睡眠時間でしょうか、食事の時間でしょうか、それとも趣味や休憩の時間でしょうか。

忙しいとき最初に削るのは

多くの人は、まず休息や運動の時間から削ってしまいがちです。
仕事が終わらないから散歩なんて行っている場合じゃない、締め切りが近いから今日はデスクにかじりつかなきゃ、と思います。
それが普通で、私もやっぱりそうでした。

 

今回は、そんな常識をひっくり返す、ある女性作家のエピソードを紹介します。

 

シニアの教養ラジオという再生リストに、私が話した音声をAIで動画にして投稿しました。

 

その女性作家の名前は、ジョルジュ・サンドです。
19世紀のフランスを代表する作家で、ショパンの恋人としても有名です。

このエピソードを紹介しているのは、フィリップ・ギルバート・ハマトンというイギリスの評論家が書いた『知的生活』という本です。
この本は明治時代に日本でも翻訳されました。
そして、私に大きな影響を与えた『知的生活の方法』の著者、渡部昇一先生が、座右の書にしていたことでも知られます。
知的生活のバイブルのような本です。

私はこの本の中に、忙しい時こそ散歩、というメモを、ジョルジュ・サンドの名前と一緒に残していました。

ジョルジュ・サンドの話が載っている本

 

今回は、このジョルジュ・サンドのエピソードを起点にして、忙しい時こその休息戦略についてお話しします。
読み終わったあとに、忙しいからこそ外に出よう、と思っていただけるとありがたいです。

目次

締め切りが迫っても、ジョルジュ・サンドは散歩の時間を先に確保した

時計の針を19世紀に戻します。

ある時、売れっ子作家だったジョルジュ・サンドのもとに、出版社から依頼が舞い込みました。
いついつまでに、この原稿を仕上げてください、という依頼です。
それは、普段の彼女なら断るような、かなり無理のあるスケジュールだったといいます。

締め切りまでの時間はギリギリで、分量は膨大でした。
普段なら、朝から晩まで書き続けなければ終わらないような仕事量です。
とてもじゃないけれど、引き受けられないですよね。

出版社からの依頼

 

でもサンドは、この仕事を引き受けました。
そのときに彼女がした決断が、結構驚くようなものでした。

ジョルジュ・サンドは、毎日の散歩の時間は確保しなければならない、だからスケジュールを組み替えよう、と考えたのです。

普通なら逆ですよね。
散歩をしている時間はないから、その分を執筆に充てよう、と考えます。

でも彼女は違いました。
この過酷な仕事を生きるためには、私には散歩が絶対に必要だ、だから散歩の時間は絶対に死守する、と考えたのです。

散歩の時間をどうするか

 

具体的には、午後にやるはずだった仕事の一部を夜に回しました。
徹夜仕事が増えることになっても、彼女は昼間の数時間を空けました。
そして空いた時間で、田園地帯をゆっくりと散歩したのです。

スケジュールの組み替え

 

ハマトンは、このエピソードを引いて、こう称賛しています。

多くの作家は、仕事が忙しくなると運動をやめてしまう。
しかし彼女は、仕事が忙しくなればなるほど、一層運動に執着した。

ハマトンの称賛

 

ここで面白いのは、執着した、という言葉です。
彼女にとって散歩は、単なる気晴らしや余暇とは違いました。
食事や睡眠と同じか、それ以上に、彼女の創作活動を支える燃料のようなものだったわけです。

もし彼女が散歩の時間を削って、その分を執筆に充てていたら、どうなっていたでしょうか。

私自身にも経験があることですが、最初の数日は、がむしゃらにやるので進むこともあります。
でも、すぐに脳が疲れ果てて、集中力が切れてしまいます。
そして最悪の場合は、体調を崩して締め切りに間に合わなかった、ということになっていたかもしれません。

そういう経験を、私は何度もしてきました。
自分もそうだ、と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

サンドは、自分の脳が最高のパフォーマンスを発揮するには、数時間の散歩が絶対に必要だということを、自分で知っていたのです。

 

だからこそ、あえてリスクを取ってでも、散歩の時間を先取りしました。
これは時間の消費ではなく、最高品質の原稿を書くための投資と言えるようなものだったのでしょう。

心身ともに健康で考え続けるために、譲れないリセット時間を先にスケジュールに入れる

このエピソードを紹介したハマトンについても、少し触れておきます。

『知的生活』は、勉強法の本というより、知的に生きるとはどういうことなのかを説いた、人生論の本だと私は理解しています。

ハマトンは、こう言っています。
知的生活とは、単に知識を詰め込むことではなく、心身ともに健康で、生き生きとした状態で思考し続けることだ。

 

ハマトンは、当時の学者や作家たちが肉体を軽視して、書斎にばかり閉じこもっていることを、かなり厳しく批判していました。
体が弱ってしまっては、健全な思考などできるか。
脳だって臓器の一つで、胃腸や筋肉と同じように適切なケアがいる。
そういうことを主張していたのです。

先ほどのジョルジュ・サンドの話も、この文脈の中で出てきます。
ですから、ハマトンにとってサンドは、まさに知的生活の達人だったわけです。

 

彼女は、精神と肉体のバランスを完璧に理解していたといいます。
つまり、机に向かう時間と野山を歩く時間、インプットとアウトプット、それから緊張と緩和のバランスです。
このリズムを崩さないことが、長い時間にわたって高いレベルの仕事を続ける秘訣だと、彼女は考え、実際に体験していました。

精神と肉体のバランス

 

これは、現代の私たちにも痛いほど刺さる話ではないでしょうか。

私たちもまた、知的生活を求められる時代に生きています。
毎日パソコンに向かって情報を処理し、何かを生み出すことを求められています。
そして忙しくなると、ついメンテナンスをサボりがちです。
今日は忙しいからジムに行くのをやめよう、睡眠時間を1時間削ろう、昼休みも働こう、と考えます。

でも、ハマトンが生きていたら、きっとこう言うでしょう。
愚かだね、君は走り続けるために、ガソリンスタンドを通り過ぎようとしている車と同じじゃないか。

 

ジョルジュ・サンドは、夜なべをしてまで昼間の散歩を守りました。
私たちも、どんなに忙しくてもこれだけは譲れない、という自分だけのリセット時間を持つといいと思います。
それは散歩でも、お風呂でも、瞑想でもかまいません。

大事なのは、それを余った時間でやるのではなく、最初にスケジュールに組み込んでおくことです。
忙しいからできないのではなく、忙しいからこそやる、ということです。

自分だけのリセット時間

 

私も50代の人生最多忙期に、朝30分、瞑想をする時間を作っていました。

ぼーっと歩く時間に脳は記憶をつなぎ合わせるから、煮詰まったら歩く

19世紀のジョルジュ・サンドの直感が正しいことは、現代の科学でも証明されています。

脳科学の分野では、人間の脳にデフォルトモードネットワークという回路があることが分かっています。
これは、私たちがぼーっとしているときにだけ活動する脳の回路だそうです。

ぼーっとしていると聞くと、脳が休んでいるように思えますが、実は逆です。
このとき脳は、過去の記憶や情報を整理しています。
そして、バラバラだった断片をつなぎ合わせるという、非常に高度な情報処理を行っているのです。

 

机に向かって集中しているとき、脳には外からの情報がどんどん入ってくるので、それを処理するのに手いっぱいです。
でも、散歩をしたりシャワーを浴びたりして、ふーっとリラックスしているときに、このデフォルトモードネットワークが起動します。
そして、先ほどの、断片をつなぎ合わせる処理が行われます。

だから、そういえば、というひらめきが生まれると言われています。

デフォルトモードネットワーク

 

ジョルジュ・サンドが過酷な執筆スケジュールの合間に散歩をしているとき、彼女の脳内では、まさにこの現象が起きていたはずです。

彼女はフランスの田園風景を眺めながら、足のリズムを感じていたはずです。
そのとき、彼女の意識は原稿から離れていても、無意識の中では物語の構成が練り上げられていたのでしょう。
キャラクターたちが動き出したり、言葉が紡がれたりしていたのではないかと思います。
だからこそ、机に戻ったときに、迷うことなくペンを走らせることができたのです。

 

つまり、彼女の散歩の時間は、サボりやロスタイムとは違いました。
立って行う執筆活動と言ってもいいようなものだったのではないでしょうか。

 

もし私たちが、今の仕事で煮詰まったなと感じていたら、あるいは忙しすぎてパニックになりそうだなと感じていたら、ジョルジュ・サンドのことを思い出すといいと思います。
ジョルジュ・サンドは、締め切り前でも散歩に出かけました。
そしてハマトンは、それを最高の知的生活だと褒め称えたのです。

私たちも、ちょっと煮詰まったなと思ったら、PCを閉じる勇気がいるのかもしれません。
たった15分でもいいので、オフィスや家の周りをぐるっと一周してみる。
コンビニまで歩いて帰ってくるだけでもいいと思います。

そういう空白を作っていくことが、結果として、仕事を早く終わらせる近道になるのではないでしょうか。
急がば回れとよく言いますが、急がば歩け、ということです。

忙しいときこそ、明日のスケジュール帳に散歩と書き込む

忙しいほど靴を履け、とでも言いたくなるジョルジュ・サンドのエピソードは、かっこいいと思います。

普段なら受けない無理な仕事を引き受けたところに、彼女のプロ根性が見えます。
そして、その解決策が、夜更かししてでも散歩をすることだったのが、なんとも人間らしくて賢明だと思います。
彼女は、自分の脳の機嫌の取り方を、よく知っていたのでしょう。

 

『知的生活』の著者ハマトンは、こう言います。
知的な生活とは、自分の限界を知って、その限界の中で最大の成果を出すための技術である。
無理をして体を壊すのは二流のやること、一流は最大の負荷がかかったときこそ最高のメンテナンスを行う。

 

最近、忙しさに追われて、自分のメンテナンスがおろそかになっているなと感じた方は、今日のジョルジュ・サンドの話を思い出してみてください。
明日のスケジュール帳に、ペンで太く、散歩と書き込んでみてください。
その時間は何があっても死守して、攻めの休息を試してみてはいかがでしょうか。

 

シニアの教養ラジオの前の回は、こちらです。

ファインマンテクニック 分かったつもりから脱出する4つのステップ

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